1997年のシンガポールを舞台に、共働きの夫婦とやんちゃな息子、フィリピンに家族を置いて働きに来たメイドの一家を描いた『イロイロ ぬくもりの記憶』。
30歳の新鋭アンソニー・チェン監督による長編デビュー作で、カンヌ国際映画祭カメラドール（新人監督賞）をはじめ、世界の様々な映画賞を獲得した傑作です。
物語の軸は10歳の息子ジャールーとメイドのテレサ。
わがままで問題行動の多いジャールーに手を焼いた両親は、テレサを雇い入れ息子の面倒を見させようとしますが、ジャールーは頑に心を開こうとしません。
でも愛する子どもを故郷に置いて必死に働くテレサの姿を見て徐々に心を開いてゆき、まるで親友のように大事な存在となっていきます。
その姿に安心しつつも嫉妬のような思いを抱く妊娠中の母親、失職したことを家族に言えない父親。
決して特別ではない家族の日常を描くこの映画は、一見地味なように思えます。
ですが、細部まで丁寧に掬い取ったリアリティを丹念に積み上げて作られており、まるで上質なリネンのように派手さはなくともずっと手離せない、そんな存在の作品です。

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