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元町映画館☆特集

〝ろう〟の写真家が、嫌いだった「うた」と出会うまでの記録『うたのはじまり』

「うたが生まれた」その瞬間に立ち会える映画『うたのはじまり』ぜひご覧ください。

世間はバタバタと、もちろん映画業界、当館も例外ではございません。が!、そんな時でも良い映画は観たい、映画館で…と思うのが映画館スタッフではないでしょうか。

「うたのはじまり」タイトルの通り、うたはどこからやってきて、どのように私たちの耳、そして声から発するようになったのか。その不思議だけど、確実に私たちの耳に残しておきたい映像、音が本作にはあります。

こんなお話。
主人公はろうの写真家・齊藤陽道さん。俳優の窪田正孝さんやMr.Childrenのアーティスト写真なども手がけるクリエイターです。20歳で補聴器を捨て、手に取ったのはカメラ。結婚し、生まれた子どもは聴者。そしてふと出てきた子守唄。そこから齊藤さんの世界の向き合い方が変わった…。

ドキュメンタリー映画が淡々と映像を切り取る作品が多い中、いきなりスクリーンに釘付けになった。それは冒頭の出産シーン。人間が生きていく上で必要なことをわざわざ、目を見開くことは日常生活でない…というのが私の考え。プライベートでも出産シーンには立ち会ったことがない。アクションやSF映画などフィクションは食い入るように見てしまうが、こんな生のシーンに出会っただけでも本作を観る意義がある。その時に聴こえてくる赤ちゃんの泣き声。この世の中で最もクリアで綺麗なその声。観ているこちら側には音として聴こえないが、映像の中にある齊藤さんらにはどのように聴こえたのだろうか。

映画はずっと言葉を探しながら進んでいく。子守唄が自然と出てくるシーンは人間の始まりをみたような感覚になる。赤ちゃんが産道から顔を出して泣く。生が映像から溢れている。その時の所謂、神々しさみたいなものは声にできない。その場にいる人も会話じゃなく、魅入っているのも微笑ましい。

コミュニケーション能力が大切だと言い聞かされる昨今。言葉を使い、会話するだけがすべてじゃない。人と人、カメラを通しての対話。自然なやり取りの中で生まれる「うた」。意味を持つ前の言葉やうたはこんなにも生っぽくて、どこにも所属していない。真っ白さが全編に散りばめられている。

そしてタイトルの「うたのはじまり」、それがどこから始まっているのかを考えていると映画のエンディングになっていた。そして聴こえてくる子守唄と子どもらのはしゃぐ音。勝手に決めつけていたスタート地点。まだこの子たちには始まりももちろん終わりも見えていないのかもしれない。

「うたが生まれた」その瞬間に立ち会える映画『うたのはじまり』ぜひご覧ください。
うたのはじまり
監督・撮影・編集:河合宏樹
2020年製作/86分/PG12/日本
配給:SPACE SHOWER FILMS
© 2020 hiroki kawai / SPACE SHOWER FILMS

上映スケジュール
3/28(土)~4/3(金)13:40
4/4(土)~4/10(金)16:50