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元町映画館☆特集

れいこいるか

阪神淡路大震災から25年が経った今も、その「街」で暮らす人々を描いたドラマ

(c)Fortune Star Media Limited. All Rights Reserved.
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誰かを待っている。誰かがやってくるのを待っている。確証も連絡もないけれど、確率は0じゃない。この期待は他の誰かじゃ分からない。当事者だけに理解できること。

今回、ご紹介するのは日本映画『れいこいるか』。
当館、元町映画館がある神戸市の長田区や三宮が舞台になっており、阪神淡路大震災から25年が経った今も、その「街」で暮らす人々を描いたドラマです。

こんなお話。
1995年、神戸。伊智子と太助は、阪神淡路大震災により一人娘のれいこを亡くす。それ以来、彼らは離婚。互いの人生を歩み始めた。そして2018年、れいこの死を受け入れつつある二人は再開する。そして親子の思い出でもある水族館のイルカショーを見にいくのだが…。

今まで当館でも多くの震災を扱った映画を上映してきた。ドキュメンタリー、ドラマだったり、表現方法は様々だ。本作は震災を背景に物語が進行する。そして大切な人がいなくなった場合、その「いなくなった」と感じる側の人間は取り残され、どうなるのか。本作ではその心情を丁寧に描いている。完璧な人間はいないことを見せつけられる。外野は簡単に「風化」という言葉で処理できるかもしれないが、当事者はそうはいかない。「忘れる方法があるなら教えて欲しい…」なんて気持ちになるだろう。作り手にとって、実際のできごとを基に物語ることは勇気がいるだろう。実際に自分は体験していないのだから。監督といった作り手による強い想いがないと成立しない、その想いがなければ映画を完成させることはできなかったのではないか。


本作の舞台、神戸、三宮、長田は今では震災があったことを忘れるくらいビルが立ち、道は整備されている。街は立ち直ったのかもしれない。電車から見える景色の数々がまさにそれだ。しかし本作ではそんな整備された街を映し出す一方で、大通りへの細道や、住宅地にポツンとある立ち飲み居酒屋、プレハブでできたような家々も出てくる。そこで暮らす人々が何とも愛らしい。街の風景でもあり、立派な本作の出演者となっている。映画を1本観たら、街歩きをした気分にもなる。


亡くなった娘は戻らない。元・夫婦らは生きていくために、社会と共存していかなければならない。娘がいなくても、街はどんどん前に進んでいき、そこに暮らす人々も同じように歳を取る。約20年の歩みを100分の映画にまとめるのは並大抵の努力が必要だったろう。それぞれに現れる新しい登場人物との関わりを経て、人は前に進んでいく。そして時に後退しながら。


この映画に出てくる人との出会いは他人事とは思えない。タダ酒を飲もうとする人、スナックの友人。ちょっと何やってるか分からない講師など。どこかで見たことある人ばかりだ。特に終盤、伊智子の目に異変が起き、次第に視力はなくなっていく。それでも明るく振る舞う伊智子。見える景色は変わっても、周りの態度は変わらない。伊智子の視点から、その街に住む人々の視点に切り替わっていく。心情の移り変わり、それが見事だ。最後には自分も映画の中の一人、その街でその景色を直接見ているような気分になる。そして同じく涙する。


葛藤や絆、愛とかそういう言葉じゃ表現できない、映画にしか作れない「生きた時間」が本作にはある。喜びや悲しみはどこからやってくるのか。そんな疑問も湧いてくる。本作に出会ってよかった。表現の可能性を教えられた…『れいこいるか』2020年を代表する邦画です。ぜひご覧ください。
れいこいるか

上映スケジュール
・8/8(土)~8/14(金)12:40~
・8/15(土)~8/21(金)17:20~
・8/22(土)~8/28(金)14:20~

出演者/監督による舞台挨拶あり 詳細は当館HPにて