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元町映画館☆特集

忘れたとかじゃなくて、ちょっと前を見るようになった。『空に聞く』

「伝えること」。それは面白い行動で、とても難しいと思う。

「伝えること」。それは面白い行動で、とても難しいと思う。

映画館人生6年目。
このまいぷれさんでのご紹介やSNS、Youtubeなど様々な媒体を通して映画、映画館のことを伝えてきました。中でもラジオは現在も出演させて頂いており、特に力を入れている発信方法の一つです。
声の力、私は信じています。


今回ご紹介するのはドキュメンタリー映画『空に聞く』。
東日本大震災の後、約3年半にわたり「陸前高田災害FM」のパーソナリティを務めた阿部裕美さんを追った本作。震災後、平地になったその場所に新しい町が作り上げれていく。再建が進む、その町の姿を阿部さんは追いかける。その町の住人にマイクを向けて、一緒に声を届ける。なぜラジオの仕事をすることになったのか。その行動は町にどのような影響を与えているか。

ラジオの仕事に携わっているので、阿部さんの言葉の選び方やゲスト回での話の引き出し方。「聞き役」に徹する姿。声の効果、阿部さんのフィルターを通すことで現地の話をスッと聞き入れることができる。

震災から10年を迎えた2021年3月11日。震災当初はあれだけ報道されていた現地も「節目」ということだけが前面に押し出されて、違和感があった。あらゆるメディアが節目とか「復興」とか、さも初めて使った言葉のように並べられる。やはり違和感。発信媒体によって、こうも伝え方が違うのかと思った。それに比べて、ラジオは素直だと改めて思う。「陸前高田災害FM」は地元に根を張り、今、必要な声を届けているように思えた。質問をなげかける、ゲストは空を仰いで考える。出た言葉はその人が「今」思う気持ちじゃないだろうか。

町は人で作られる。本作はラジオの様子だけでなく、同時に復興に向けた町や神輿の姿も見受けられう。毎日、人が呼吸するように動く町。
こんな経験を思い出す。久しぶりに通った道にあった建造物がなくなっている。次の日には工事が始まり、また通ってみるといつの間にか新しい何かがそこに立っている。時間とともに、前にあった何が忘れされ、反対側でも工事が始まる……といったように人が思う以上に町は毎日変化している。被災地では特にその変化が大きい。
本作を見ているとやはりラジオは必要な媒体に感じる。映像は情報量が多い。一方、声は情報量が少ない分、その人の生きた様子が声にのる。それだけで生きているのが伝わるし、呼吸しているのが分かる。そんな媒体はこれから生まれるのだろうか。

題名の通り、空に聞いても返事はないかもしれないけど、作品の中にも出てくる「忘れたとかじゃなくて、ちょっと前を見るようになった」。その言葉がすべてのように思う。震災って、ラジオって、声って。そういう疑問やモヤモヤをちょっとずつ消化しながら前を向いて考えることができる映画『空に聞く』、ぜひ映画館でお楽しみください。
『空に聞く』
(監督・撮影・編集:小森はるか/2018年/日本/73分)

上映スケジュール
6/26(土)~7/2(金)13:10~
7/3(土)~7/9(金)15:40~